となりの相続事情

相続登記を怠った結果、12人分の承諾と実印押印が必要に・・・。

何が起きた?!

Aさんは祖父の代からこの地に住む地主さん。祖父、父ともにすでに亡くなり、長兄のAさんが自宅を相続して住んでいます。そんなある日のこと、1本の電話から驚きの事態が始まったのです。その電話は隣県の役所からのもので、新しく道路整備する予定地にAさんの祖父名義の土地があるので買い取りたいとの打診でした。

存在を知らない土地に突然、買い取り打診が。

Aさんはその電話を受けるまで自分の先祖が隣県に土地を持っていることなど全く知りませんでした。そこで登記事項証明書を確認すると、確かに祖父名義になっています。昔、祖父が将来の値上がりを期待して購入したものと思われます。

しかもその土地は固定資産税評価額が安く、固定資産税が課税されていなかったため、祖父から父へ、父からAさんへの相続の際も土地の存在を失念したままになっていたようです。また、現状では相続した不動産の名義変更には期限がないため、放置しておいたのも一因でした。

法定相続人が13人も!喜びから一転、意気消沈。

そんな忘れ去られていた土地だったにもかかわらず売れることになったのですから、降って沸いたようないい話です。Aさんは隣県からの打診に大乗り気で、売却を進めることにしました。

しかし、当然のことながら、売却するには土地の名義をAさんに書き換える必要があります。そのためには、土地の法定相続人全員から承諾を得る必要があったのです。そこで司法書士に依頼して調べてみると、その土地に関わる法定相続人がAさん以外に12人もいることが判明しました。

祖父の子どもはAさんの父を含めて4人。その4人は全員亡くなっていますので、その子どもたち、つまりAさんの代にあたる13人がすべて法定相続人ということになります。したがって、この土地の名義をAさんに変更するには、「遺産分割協議書」を作成し、そこにAさん以外の12人の実印押印と印鑑証明書等が必要になります。何人かは会ったこともなく、住んでいる場所もわからない人もいます。

これだけの人数がいれば、司法書士の費用も高くなりますし、まずはAさんから全員にご挨拶の連絡を入れることも必要になってきます。役所からの打診があった当初は喜んだAさんでしたが、とても気の重い話になってしまいました。

期限も罰則もない相続登記。近年中に義務化の予定。

相続登記を怠っていると代が進むごとに法定相続人の数が増え、いざとなった時の手続きが膨大になりかねません。無事に売却が済んだAさんも、しばらくは晴れやかな気持ちになれなかったようです。

相続登記は義務ではなく、期限もないため、Aさんのケースのように長い年月放置した結果、所有者がわからなくなることも見受けられます。所有者不明の土地はいざという時に有効活用しづらく、また、増加傾向にあるため近年社会問題化しています。そこで現在、土地の相続登記の義務化が検討されており、2020年秋の臨時国会で法案が提出される見通しです。もし、相続登記が済んでいない土地がある場合は、早めの対応をお勧めします。

※本記事は2020年6月号に掲載されたもので、その時点の法令等に則って書かれています。

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