となりの相続事情

気心の知れた税理士さんに、相続税の申告を依頼したけれど…。

何が起きた?!

Aさんはご自宅のほかにマンション2棟、アパート1棟、駐車場2か所を保有していました。そのAさんが亡くなって相続が発生したため、奥様のBさんは相続税の申告手続きを昔から確定申告等でお付き合いのある税理士さんに依頼しました。ところが、おおよその相続税額の回答があったのが6か月も経過してからでした。

申告期限まで残り4か月しかありません。結果として、相続税を捻出するために駐車場1か所を売却することになったのですが、その土地は上空に送電線が通っており、また一部の隣地境界が未確定でした。しかし売却までの時間が足りないためそのままで売却することとなりました。その結果、査定価格は当該エリアの相場よりも2割程度安くなってしまいました。そうは言っても納付期限が迫っています。渋々ながら安い価格で土地を売却し、無事に相続税は納付できました。

偶然参加したセミナーで「相続税の還付請求」を知り、試算してみたところ…。

それから約1年後、偶然参加したセミナーで「相続税の還付請求」という制度があることを知りました。これは相続税申告書のチェックをおこない、納め過ぎた相続税があった場合に一部の還付が受けられるという制度です。

試算を依頼したところ、納めた相続税について還付される可能性が高いことが判明しました。売却した駐車場は敷地面積が大きいため、相続税評価上は「広大地(※1)」という土地に該当する可能性があるほか、上空の送電線の存在なども相続税評価額減額の対象になるはずだったのですが、当初の税理士さんが適用させていなかったことがわかりました。

そこで、資産税(※2)に詳しい別の税理士さんに還付請求手続きを依頼したところ、約1億円の相続税が還付されました。還付されたのは嬉しいけれど、当初から資産税に強い税理士さんに依頼していたら、もしかしたら駐車場の土地を売却せずに有効活用できたかもしれないと、奥様のBさんはとても残念な気持ちになりました。

相続税の申告は資産税に強い税理士に依頼するのが賢明。

今回の事例で明確になったのは、目的によって税理士さんを使い分ける必要があるということです。現在、税理士登録者は約7万7千人(2019年6月時点)いますが、1年間の相続税課税者数は11万2千人(2017年の場合)しかいません。単純計算すれば、相続税の取扱い件数は税理士さん一人当たり年間でわずか約1.5件ということになります。つまり、件数が非常に少ないため、税理士さんによって相続の申告についての経験や専門知識に差があり、その結果、今回のような手違いが起きてしまうことにもなりかねません。

したがって、相続税の申告は資産税に強い税理士さんに依頼するのが賢明と言えます。大切な資産を有効活用するためにも、無用な手間を省いてスムーズに申告を完了したいものです。

※1:広大地とは、その地域における標準的な宅地の地積に比して著しく地積が広大で都市計画法第4条12項に規定する開発行為を行うとした場合に公共公益的施設用地の負担が必要と認められるものをいう。(財産評価基本通達24ー4)
ただし、この「広大地」評価は2017年12月31日で終了となり、2018年1月1日より「地積規模の大きな宅地の評価」が新設されました。
※2:主に相続税、贈与税、財産評価及び譲渡所得に係る所得税などを総称して資産税と言います。

※本記事は2019年10月号に掲載されたもので、その時点の法令等に則って書かれています。

「となりの相続事情」の記事一覧

SNSシェア