すまいとくらし

命を感じる 命と向き合うこと

命を感じる 命と向き合うこと

芽吹く春、盛りの夏、実りの秋、静寂の冬、
四季のある国に生まれた私たちは
巡ってくる季節、それぞれを愛でて暮らしています。
人生にも季節が巡りますが、それぞれの魅力を楽しむことが大切です。
銀色の雪景色は、私たちの目にどのように映るのでしょうか?


近ごろ、延命治療のご相談を受ける機会が増えました。飛躍的に寿命が延びたことや延命のための医療技術が急速に進んだことが理由に挙げられます。日本はわずか数十年の間に、自宅で安らかに逝くことが難しい社会になりました。

現在、家族や本人に十分な知識や情報がなく、本当に自分に必要なのかを考える間もなく、延命治療を受けている方が少なくありません。多くの病院では、自分の口から食べられなくなった時に胃ろう(※)という医療処置が行われ、それに頼らざるを得ない現実もあります。

その結果「命が延ばされる」のですが、私はそれらが本当に、誰にでも必要なことなのかと疑問を抱いています。

私の二人の祖母は、最期の時間を家族と共に過ごし、 おだやかに逝きました。私の父は医師ですが、食事を受け付けなくなった時、胃ろうも点滴も行いませんでした。母方の祖母の看取りには新人看護師だった私もつたないケアで参加しました。在宅で自然に逝くことを希望した祖母の銀色の世界を、家族で共有したように感じています。

人間は月が満ちて生まれ、時がきて最期を迎える。その時、あなたは自身の命にどう向き合いますか?人の死は必然です。四季が巡ってくるように、人生も巡ります。生命体の老化過程としてある死は、異常なことではないと認め、そろそろ自然に逝くための「引き算のケア」を考える勇気や覚悟を持つことが必要な時期にきているのではないでしょうか。

世田谷区立特別養護老人ホーム芦花ホームの勤務医石飛幸三さんが著した『口から食べられなくなったらどうしますか「平穏死」のすすめ』は、安らかな看取りを考えている方々に読んでいただきたい一冊です。

私たちが自分でできることとして、自分の意思を記録することを提案します。要介護や寝たきりになった時に望む療養の場、食事が摂れなくなった時、認知症になった時の対応、 延命治療の有無、費用、財産管理など、元気なうちから対応を確認し、 家族に伝えておきましょう。遺品整理業者やNPOが、意思を整理しやすいライフプランニングノートやエンディングノートを開発して市販しています。

マザー・テレサは、数枚のサリーとトランクひとつを残して亡くなりました。私も集めたモノに固執せず、愛情ひとつを携え、精一杯生き、心安らかに銀色の季節を過ごしたいと願っています。

※胃ろう:PEG(Percutaneous Endoscopic Gastrostomy・経皮内視鏡的胃ろう造設術)により、お腹の表面から胃まで通した管で、栄養を摂取する方法。

ケアマネジャー・看護師・産業カウンセラー。三井不動産(株)ケアデザインプラザで、介護を含めたシニアライフのコンサルティングを行っている。やさしく丁寧なコンサルティングに定評がある一方、企業の介護関連のアドバイザーとしても活躍し、講演・執筆も多数。高齢者支援のみならず、支える人を支えるメッセージを各方面に発信している。ウェブサイト「gooヘルスケア」で介護コラムを連載中。著書に『介護生活これで安心』(小学館)。

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