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意外と知らない「医療費控除」拡張法

意外と知らない「医療費控除」拡張法

比較的馴染みのある医療費控除ですが、申告者ご本人だけでなく扶養家族の医療費や、通院のための交通費なども対象になる可能性があることをご存知でしょうか? 会社員の方でも確定申告することで所得税の還付を受けられるかもしれません。今回は改めて医療費控除について見直してみましょう。

1.医療費控除とは?

1年間に支払った医療費から保険金などで補塡される額を控除した実質負担額から10万円(年間所得金額の5%(上限10万円))を控除した残額分、課税所得金額が少なくなる仕組みです。

所得税の税額は、所得金額から様々な項目の控除をした残額に税率を掛けることで計算されます。

10万円を控除した医療費にその方に応じた税率を掛けた金額分、税額が少なくなります。つまり、10万円を超えた医療費額と同額の税額が少なくなる訳ではありませんので、ぬか喜びにご注意ください。

2.一家団結! 交通費OK!

意外と知られていないのですが、医療費控除の対象となる医療費は、申告するご本人分だけではありません。生計を一にする配偶者・その他の親族の医療費で申告する方が支払ったものも含めることができます。

生計を一にするとは、必ずしも同じ家で寝起きしているという状況を指しているのではありません。仕送りで生活されている一人暮らしのお子様、ご両親の医療費も含めることができます。ただし、その別居されている方が、その申告する方の仕送り分で生活しており、その方の医療費を申告する方が負担していることを前提としています。

また、医療費には通院に必要な交通費も含まれます。ただし、タクシー代は公共交通機関を利用することができない場合等に限り対象となりますので、ご注意ください。

3.人生いろいろ……老人ホームも

老人ホームにはいくつもの種類があります。次の4種の施設に支払った施設サービスの費用は医療費控除の対象となります。

(1)指定介護老人福祉施設

(2)指定地域密着型介護老人福祉施設

(3)介護老人保健施設

(4)指定介護療養型医療施設

ただし、入所しない場合であっても必要となる費用(理容代等)は控除対象になりません。また(1)(2)の施設に支払った費用は2分の1だけが対象となります。

4.おむつ代も医療費控除!

おむつ代も医療費控除の対象となります。ただし、治療に必要とされることが条件になります。

その為、治療に必要なおむつであることを証明する、医師が発行した「おむつ使用証明書」を確定申告書に添付するもしくは、提出時に提示する必要があります。

では、2年目以降はどうなるでしょう? 市町村長等が発行する「おむつ使用の確認書」等(市町村によって名称が異なります)で代用することができます。なお、確認書の発行手数料は市町村によると思われますが無料のところが多いようです。

また、3.でご紹介した施設に入居している方が介護保険給付の一環として支払ったおむつ代は、証明書の添付等が無い場合でも医療費控除の対象となります。

5.美容はダメ?

医師に支払った医療費でも医療費控除の対象とならないものがあります。よく知られているものが「美容」のための費用です。

では美しくなるための費用は何でも駄目なのでしょうか? 一見すると対象とならないような費用でも、対象となるもののご紹介です。

(1)おしゃれを楽しむために眼鏡は……という方に話題のレーシック(視力回復レーザー手術)。こちらは医療費控除の対象です。

(2)歯科医で歯石除去してもらうと口元が明るくなります。これは一般的には対象とならない費用です。しかし、歯周病の治療の一環として行われた場合、保険対象となり、医療費控除もOKです。

(3)歳を重ねること、コンタクトレンズの長期・長時間使用等により、まぶたが垂れ下がる「目瞼下垂」。この症状の治療には手術が必要となり、医師の判断で、保険の対象となります。すっきり目元の為の医療費も対象となる場合があるのです。

同じく一般的には医療費控除の対象とならないものに健康診断の費用があります。治療に直接必要ないため、医療費控除の対象とされていないのです。

しかし、診断の結果、重大な疾病が発見され、治療した場合には、治療に先立って行われた診察と同じとされ、医療費控除の対象となります。

6.健康が一番

電子申告の場合、領収書を申告書に添付する必要がありません。しかし、調査の際、領収書を提示できない状態では困ります。今から年末に向けて医療費の領収書の収集、保管をお願いします。

医療費控除を受けないで済む、健康一番! とは言っても、10万円を超えそうな時は漏れなく領収書を集め、節税に励みたいものです。

税理士。昭和27年生まれ。早稲田大学教育学部卒。税理士法人エーティーオー財産相談室代表社員。国税専門官として税務調査を10年強経験後アーンスト&ヤング会計事務所、タクトコンサルティングを経て独立。経験を生かした資産税のスペシャリストとして活躍中。著書に『相続に強い税理士になるための教科書』『相続財産は法人化で残しなさい』『円満な相続の本』など。

税理士法人ATO財産相談室

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