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相続法の改正相続法の改正

レッツプラザ2020年10月号/執筆者:江口 正夫

Q.お客さまからのご質問 Q.お客さまからのご質問
相続させる旨の遺言も登記等の対抗要件が必要
私の父が先日他界しました。相続人は、長男である私と、次男、長女、次女の4人です。父が死亡した後、会社の資金繰りに追われていた次男のBは、父名義の自宅の土地建物について法定相続分に基づき、私(長男)・次男・長女・次女が各4分の1の持分とする遺産分割未了の状態の所有権の移転登記をおこない、次男の4分の1の共有持分を第三者であるY株式会社に売却し、 Y株式会社に4分の1の所有権の移転登記をしました。
その前後に父の自筆証書の遺言が発見されました。家庭裁判所で検認手続きをしましたが、自宅の土地建物は長男である私に全部相続させると書いてありました。私は、 Y株式会社に対し、次男がY社に売却した自宅の土地建物の4分の1は私の物であると言って取り返すことができるでしょうか。

A.お答え

遺産の承継の方式と登記等の対抗要件の要否

相続で被相続人の財産を承継した場合に、自分がその遺産を承継したことを第三者に主張するためには、その財産についての登記・登録等の対抗要件を取得しておくことが必要なのでしょうか。この点についてのルールが、改正前民法と、改正民法とで異なっていますので、注意する必要があります。

①改正前民法の場合

改正前民法のもとでは、相続人が自己の法定相続分よりも多い財産を承継した場合には、①遺産分割協議により法定相続分よりも多い財産を承継した場合、②遺贈により法定相続分よりも多い財産を承継した場合には登記・登録等の対抗要件を取得しなければ、法定相続分を超える部分については第三者には対抗できませんが、いわゆる「相続させる旨の遺言」(例えば「相続人の長男に自宅の土地建物全部を相続させる」と記載された遺言)の場合には、法定相続分を超えて財産を取得した場合も、登記・登録等の対抗要件を取得していなくても第三者に対抗できると解されていました(例えば最高裁平成14年6月10日等/図2参照)。

従って、改正前民法のもとでは、長男は、Y株式会社に対し、お父様の遺言書に基づいて、次男から買い受けた4分の1の持分を自分に返せと請求することが認められていました。ここで問題となるのは、ご質問のケースのように、遺産分割未了の段階で法定相続分で相続登記をした場合と、実際に遺産分割協議をおこなった結果、各相続人が法定相続分の割合で自宅の土地建物を相続した旨の相続登記とは、登記の外形からは全く区別がつかないことです。従って、Y株式会社としては、遺産分割が完了しているものと信じて次男から持分を買い受けた場合でも、その持ち分を取り戻されてしまうことになります。

②改正民法の場合

改正民法では、「相続による権利の承継は、遺産の分割によるものかどうかにかかわらず、次条(※1)及び第901条(※2)の規定により算定した相続分を超える部分については、登記、登録その他の対抗要件を備えなければ、第三者に対抗することができない」(改正民法第899条の2)と定められました。 「遺産の分割によるものかどうかにかかわらず」とは、遺産分割協議に基づくものであれ、遺贈によるものであれ、あるいは相続させる旨の遺言に基づくものであれ、およそ、相続による財産の承継については対抗要件を備えなければ第三者に対抗できない、という意味です。

この改正により、長男は、せっかくお父様の遺言により、自宅の土地建物は全部長男に相続させるとの記載があっても、すでにY株式会社が対抗要件である登記を備えた以上は、Y株式会社が次男から買い受けた4分の1の持分については取り戻すことができなくなってしまいます。この点は、改正前民法の時代の最高裁判例を変更するものですので、注意が必要です。不動産を相続した場合には、速やかに登記をしておくことが必要となります。

※1 900条。法定相続分。
※2 代襲相続人の相続分。

※本記事は2020年10月号に掲載されたもので、その時点の法令等に則って書かれています。

江口 正夫
海谷・江口・池田法律事務所 弁護士 江口 正夫
東京大学法学部卒業。弁護士(東京弁護士会所属)。最高裁判所司法研修所弁護教官室所付、日本弁護士連合会代議員、東京弁護士会常議員、民事訴訟法改正問題特別委員会副委員長、NHK文化センター専任講師、不動産流通促進協議会講師、東京商工会議所講師等を歴任。公益財団法人日本賃貸住宅管理協会理事。

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