土地資産家のための法務講座

相続法の改正 ~その1 自筆証書遺言の方式の緩和~

2019年改正民法により「自筆証書遺言」の要件が緩和され、別紙として添付する部分については手書きが免除されるなど、遺言作成の手間が大きく軽減されました。一方で、自筆証書遺言が内包するリスクについては相変わらず留意が必要です。改正の概要と対応の仕方についてご説明します。

Q.お客さまからのご質問

民法の相続法が改正され、2019年7月1日から実施されているとのことですが、自筆証書遺言の方式の緩和によって、これまでよりも自筆証書の遺言が利用しやすくなったと聞きました。自筆証書の遺言はどこが変わるのでしょうか。また、利用する場合の留意点があれば教えてください。

A. お答え

改正前民法における自筆証書遺言の作成方法

自筆証書遺言とは、遺言者本人が自分一人で作成することができる遺言方式で証人もその他の手続きも一切不要です。遺言書を自分で作成すればよいのですが、改正前民法では、自筆証書遺言は全文を自筆で記載することが求められていました。全文自筆ということは、遺言書の本文だけではなく、遺産の目録を遺言書に添付する場合にこの財産目録も全て最初から最後まで自筆で作成することが要件でした。このため、せっかく遺言書本文を全文自筆で作成しても、財産目録をパソコンで作成しプリントアウトしたものを添付すると自筆証書遺言は無効になってしまいます。

そこで、改正民法では、自筆証書遺言をもっと利用しやすくするための改正がおこなわれました。今回の改正民法における自筆証書遺言の改正は、自筆証書遺言の利用の促進策のひとつとして位置づけられます。この規定は例外的にすでに2019年1月13日から施行されていますが、改正民法施行後に相続が開始した場合であっても、2019年1月13日前に作成された自筆証書には適用されないことに注意してください。

改正民法における自筆証書遺言の改正点

改正民法は、自筆証書遺言の作成要件のうち、遺言書に添付する財産目録については、必ずしも自筆である必要はないとの改正をおこないました。

今回の改正により、財産目録は必ずしも自筆ではなくとも、パソコンやワープロで目録として作成したものを添付しても自筆証書遺言として有効とされることなりました。ただし、財産目録には、必ず各1枚ごとに(表裏の両面に目録が作成されている場合は各頁ごとに)遺言者が署名捺印しなければならないとされていることに注意してください。
改正民法では、財産目録は必ずしも遺言書本文に綴じ込み、各頁の間に割り印を押すことは要件とはされていません。また、改正民法は、財産目録に押印する印鑑は、遺言書本文に押捺した印鑑と同一であることは要求していません。すなわち、改正民法は、遺言書に押捺する印鑑は印鑑登録をした実印に限るとしているわけではなく、遺言書本文と財産目録に押印する印鑑は別の印鑑を押捺していても有効とされ、かつ、遺言書本文と財産目録は綴じて割り印を押す必要もないとされているのです。しかし、その場合には、財産目録を第三者が差し替えたと主張されて偽造や変造であるとの紛争が起きやすくなりますので、改正民法のもとで遺言書本文に押捺する印鑑と財産目録に押印する印鑑は同一の印鑑を用いるようにして、パソコンで作成した財産目録等を遺言書本文に綴じ込み各頁ごとに遺言書本文で押捺した印鑑と同一の印鑑で割り印を押すように心がける方がよいと思います。なお、改正民法は、財産目録はパソコンで印字したもの等に限らず、不動産登記簿の全部事項証明書のコピーや、預貯金通帳のコピーを添付しても構わないことになっています。その意味では自筆証書遺言はその作成がかなり簡便になったといえます。

※本記事は2019年10月号に掲載されたもので、2022年1月時点の法令等に則って改訂しています。

東京大学法学部卒業。弁護士(東京弁護士会所属)。最高裁判所司法研修所弁護教官室所付、日本弁護士連合会代議員、東京弁護士会常議員、民事訴訟法改正問題特別委員会副委員長、NHK文化センター専任講師、不動産流通促進協議会講師、東京商工会議所講師等を歴任。公益財団法人日本賃貸住宅管理協会理事。

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