土地資産家のための法務講座

12年前の贈与に対する遺留分減殺請求は可能か?

相続財産の大半を占めるはずの不動産が、実は相続人の一人に12年も前に贈与されていた……。他の共同相続人は泣き寝入りするしかないのでしょうか。遺留分算定に組み込まれる「贈与」について、解説します。

母が亡くなりました。先年に父を亡くしており、母の遺産は長男、次男と、長女である私の3人の兄弟姉妹で相続することになります。母の遺産は、上場企業数社の有価証券と郵便局の定額郵便貯金、銀行の定期預金と普通預金でしたが、自宅の土地建物とアパート2棟が12年前に長男に贈与登記がされていました。
母は昔気質の人でしたから、財産は長男が引き継ぐのが当然との考えだったのかもしれませんが、長男に贈与された自宅の土地建物とアパート2棟の価値は、私と次男が相続する財産の10倍以上もあり、私としては納得がいきません。ただ、10年以上も前に贈与されている点が気にかかります。相続人には遺留分という権利があると聞きました。12年も前になされた贈与についても、遺留分の計算に加えることは認められるのでしょうか。

遺留分とは

遺留分とは、「一定の相続人のために遺留されるべき相続財産の一定部分」のことです。わかりやすく言えば、遺言や生前贈与でも侵害することのできない相続人の最低限の取得分ということになります。ここで「一定の相続人のために」と記載されているということは、相続人の中には遺留分を有する相続人と、これを有しない相続人がいることを示しています。民法では、相続人のうち、第三順位の血族相続人(被相続人の兄弟姉妹)のみが遺留分を有しておらず、その他の相続人は遺留分を有するものと定めています。

遺留分の算定方法

遺留分は、「被相続人が相続開始の時において有した財産の価額にその贈与した財産の価額を加えた額から債務の全額を控除してこれを算定する」(民法1029条1項)と定められていますが、同時に民法では「贈与は、相続開始前の1年間にしたものに限り、前条の規定によりその価額を算入する。当事者の双方が遺留分権利者に損害を加えることを知って贈与をしたときは、1年前の日より前にしたものについても、同様とする」(民法第1030条)とも規定しています。

この規定からすると、12年も前に贈与された自宅の土地建物とアパート2棟の土地建物は、「相続開始前の1年間にしたもの」には該当しないので、遺留分の計算に算入されないかのようにも読めます。しかし、わが国の判例では、共同相続人の一人に対し婚姻、養子縁組のため、もしくは生計の資本としてなされた贈与の場合(これを「特別受益」といいます。)には、1年前か否かを問わず、また、遺留分侵害の意図があったか否かを問わず、遺留分算定基礎財産に算入されると判断されています(最判昭和51年3月18日)。相続人に対する特別受益となる贈与は、原則として遺留分の計算に加算できるという点に注意する必要があります。

※本記事は2017年1月号に掲載されたもので、その時点の法令等に則って書かれています。

東京大学法学部卒業。弁護士(東京弁護士会所属)。最高裁判所司法研修所弁護教官室所付、日本弁護士連合会代議員、東京弁護士会常議員、民事訴訟法改正問題特別委員会副委員長、NHK文化センター専任講師、不動産流通促進協議会講師、東京商工会議所講師等を歴任。公益財団法人日本賃貸住宅管理協会理事。

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